夏は食中毒に気を付けて(2)食中毒の原因菌
食中毒の原因となるものは、細菌やウイルス、寄生虫、植物毒、フグ毒、きのこ毒、化学物質など様々です。このうち特に夏に増加するのが細菌による食中毒です。今回は食中毒の原因となる主な菌を、感染から発症までの期間(潜伏期間)の短い順に並べて紹介します。
黄色ブドウ球菌(潜伏期間:1〜5時間)
ヒトの皮膚に常在する菌で、調理する人の手や指(とくに傷があったり化膿していると)で汚染された食品の中で菌がエンテロトキシンという毒素を産生します。食後3時間前後(1〜5時間)に激しい吐き気や嘔吐、下痢、腹痛が起こります(毒素型食中毒)。黄色ブドウ球菌は酸性やアルカリ性の環境下でも増殖し、つくられた毒素は熱にも乾燥にも強いため、食品に菌が付着しないよう調理時の手指衛生に努めることが大切です。
セレウス菌(潜伏期間:30分〜15時間)
土壌に生息する菌で米や麦などの穀物に感染します。セレウス菌も黄色ブドウ球菌と同様に毒素型食中毒ですが、セレウス菌毒素には「嘔吐型」と「下痢型」があり、「嘔吐型」は潜伏期間が30分〜5 時間と短く、「下痢型」は6〜15時間です。「嘔吐型」の毒素は胃酸に強い構造をしているため、食品内で産生された毒素が直接胃を侵して嘔吐症状をひきおこすのに対し、「下痢型」毒素は胃酸や消化酵素で不活化するために胃では作用せず、腸内で増殖したセレウス菌が産生した毒素によって下痢を起こします。チャーハンやピラフなど中途半端な加熱料理などが主な感染経路になります。
ウェルシュ菌(潜伏期間:6〜18時間)
人や動物の腸管や土壌などに広く生息する細菌で、酸素のないところで増殖し、過酷な環境下では乾燥や熱に強い「芽胞(がほう)」を形成する特徴があります。汚染された食物を食べると6~18時間後に下痢と腹痛をきたします。カレーや煮付けなどの煮込み料理を室温で長時間放置すると増殖しやすいので注意しましょう。
ボツリヌス菌(潜伏期間:8〜36時間)
ボツリヌス菌も「芽胞」を形成する菌で、海、川、湖や土壌に広く存在しています。低酸素の環境下でボツリヌス毒素という致死性の神経毒を産生するため、原因となる食品を食べてから8~36時間後に脱力感、倦怠感、めまい、嚥下障害、便秘、複視(物が2重に見える)、呼吸困難などの症状がでます。酸素が少ない状態で増えるため、缶詰やびん詰、真空パック食品、発酵食品が原因となります。毒素自体は熱に弱いため、120℃4分以上加熱することで中毒を予防することができます。容器が膨らんでいたり臭いのおかしい密封食品は菌に汚染されている可能性があるため廃棄してください。また、はちみつを1歳未満の乳児はが食べると乳児ボツリヌス症を起こすことがあるので1歳未満の乳児には絶対にはちみつを与えないでください。
腸炎ビブリオ(潜伏期間:平均12時間)
魚介類(刺身、寿司、魚介加工品など)から感染する食中毒で、汚染された食物を食べると12時間前後で激しい腹痛と頻回の下痢(水様〜粘液、粘血)、嘔吐がみられます。腸炎ビブリオは低温にも高温にも弱い菌のため、魚介類の低温保存や調理時の十分な加熱によって予防できます。
サルモネラ菌(潜伏期間:8〜48時間)
サルモネラは自然界のあらゆるところに生息し、特に家畜(ブタ、ニワトリ、ウシ)の腸管内では常在菌として存在しているため、生肉やレバ刺し、鶏卵を介して食中毒が発生します。摂取後8〜48時間後(長いと3〜4日後)に嘔吐で始まり、その数時間後に腹痛や頻回の下痢、発熱などを引き起こします。ときに粘血便をきたすことがあり、下痢は3〜4 日持続し、1 週間以上に及ぶこともあります。小児では意識障害やけいれん、高齢者では急性脱水症を起こすことがあり、菌血症など重症化しやすく回復も遅れる傾向があるため注意が必要です。サルモネラの予防には食肉および鶏卵の低温保存管理と加熱調理、調理中の汚染防止が重要です。特に夏の生卵には注意しましょう。
カンピロバクター菌(潜伏期間:2〜5日)
カンピロバクター菌も家畜(ブタ、ニワトリ、ウシ)の腸管内に存在しており、これら食肉やその加工品、牛乳などから感染します。乾燥に弱い菌ですが、ほかの食中毒菌と比較して少量(500〜800個)でも感染してしまう特徴があります。感染後2〜5日後に下痢(水様〜粘液、粘血)、腹痛、発熱、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などを生じ、重症例では大量の水様性下痢のために急速に脱水症状をきたします。また感染1〜3週間後に手足の麻痺をきたすギラン・バレー症候群という自己免疫性末梢神経障害を合併することがあり注意が必要です。
エルシニア菌(潜伏期間:2〜5日)
エルシニア菌は野生動物(とくにブタ)の糞便内に生息する菌で、冷蔵庫内温度である4 ℃でも発育できることを特徴とします。潜伏期間は2〜5日で、症状は多岐にわたり、下痢、腹痛、発熱といった腸炎症状だけでなく、頭痛や咳、咽頭痛などの感冒様症状や関節炎、発疹、紅斑、莓舌などの症状を示すこともあります。小腸の末端部から盲腸にかけて強く炎症をおこし、虫垂炎のような強い右下腹部の痛みをきたすことがあります。エルシニアは低温で発育できる一方、75℃1分の加熱で死滅するため、調理時は十分な加熱をしましょう。
腸管出血性大腸菌(潜伏期間:3〜5日)
大腸菌には様々な種類があり、多くは無害ですが一部でヒトに害を与えるものがあり、これを病原性大腸菌と呼びます。病原性大腸菌には「腸管病原性大腸菌」「腸管侵入性大腸菌」「腸管出血性大腸菌」「腸管毒素原性大腸菌」「腸管凝集性大腸菌」などの種類があり、いずれも下痢や腹痛など腸炎症状を起こします。特に集団食中毒で有名なのが腸管出血性大腸菌O157で、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を特徴とし、特に小児や老人では、溶血性尿毒症や脳症(けいれんや意識障害等)を引き起こしやすいので注意が必要です。大腸菌感染は潜伏期間が長く、O157の場合は平均3〜5日(2〜14日)と言われています。大腸菌そのものはごく環境中にごくありふれた菌ですので、あらゆる食品・食材が感染源となる可能性がありますが、特に牛肉を生や不充分な加熱で食することは避けましょう。
これらの食中毒の症状が現れたら、自己判断をせずに早めに医師の診断と治療を受けましょう。早期の対応が健康回復につながります。
記事監修:河口内科眼科クリニック院長/消化器病専門医 河口貴昭 →医師紹介
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